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アルコール依存症だったYさんが「サービスハブ西成」を利用して清掃業に就くまでの8ヶ月間

今回は「サービスハブ」の利用者Yさんのお話をお聞きします。職員の花岡も同席しています。

ーーーサービスハブ西成を利用したきっかけは何ですか?

Yさん
2022年の3月か4月頃やったと思います。生活保護を4年ぐらい受けてからですね。

アルコール依存症で、仕事をしてもすぐに辞めてしまったりとか、もうどうでもよくなってきて、だんだん、 ケースワーカーさんも来るんは来るんですけど、あんま話もせえへんくて、最終的にサービスハブ西成の方に紹介されて来たんです。8ヶ月ぐらいお世話になりました。

ーーーアルコール依存症だったんですね。では最初にお酒の量を減らすところからはじまったんですか?

Yさん
最初はそういうのはなかったんですよ。最初はまだ酒を飲んでましたし。飲みすぎるのは問題だとは思っていました。担当についてくれた花岡さんにも話していましたが、病院に行くのは嫌だと伝えていました。

花岡
病院は抵抗もあったけれど、就労には興味がありそうだったので、まずはボランティアをやってみましょうか、と伝えていろんなボランティアに参加してもらいましたね。

ーーーどんなボランティアをされたんですか?

Yさん
高齢者の100歳体操の会場の設置とか、田んぼに稲を植えたりとか。

花岡
あと、運搬作業のボランティアで水を運んでもらうのもやってもらいましたね。

ーーー身体を動かす体力系のボランティアが多かったんですね?

花岡
100歳体操とかは受付もやってもらったり、子どもの遠足の補助というか見守りもしてもらったり、体力系以外もしてもらいましたね。

ハロウィンで子どもにお菓子を配るボランティア

ーーーバリエーションに富んでいますね。わりと意欲たっぷりだったんですか?

Yさん
いやぜんぜん。サービスハブ西成に来た初日は嫌やったんですよ。当時は服もボロボロで髪の毛もボサボサで、アルコール依存症でろくに字も書けないから行くのが恥ずかしかったです。階段を上るのも怖かったし、人と話すのも嫌やったし、なによりサービスハブ西成は人が多いなと感じました。

そしたら花岡さんが自宅の部屋までやってきたんです。ゴミだらけの部屋に来られたのでびっくりしましたね。

花岡
そうでしたね。

Yさん
「強制ではないですけど、またちょっと来てみてはどうですか」と言われて、行くことにしました。それから1週間に1回ぐらいサービスハブ西成に行くようになりました。

ーーーじゃあ週6日はどんなふうに過ごされていたんですか?

Yさん
自分なりに変わらなきゃいけないと思って、散歩したり、 途中で筋トレも始めたりしました。

ーーー変わらなきゃと思いはじめたのは何かきっかけがあったんですか?

Yさん
それは、やっぱりここで働いている若い人たちを見て、自分も頑張ろうかなと。

ーーーいいですね。ボランティアで楽しいなと感じたことはありますか?

Yさん
そうですね、高齢者の方だったり、子どもたちとかと触れ合っていくのは楽しかったですね。

ーーーえ? 最初は人と話すのが嫌と言っていたのに?

Yさん
嫌やったのに、はい、なんか自然と話せるようになってきて。

花岡
Yさんは物腰が柔らかく話される方なので、相手の人も話しやすいんだろうと見てて思いましたね。

ーーーぜんぜんアルコール依存症のイメージと印象が違いますね。

Yさん
昔は完全に依存症でひどかったです。隣の部屋の人と喧嘩したこともありました。一番ひどかったときは夢を見ているのか起きているのか区別がつかなくなっていました。歩行障害というか、階段とかも怖くて。

ーーーじゃあ劇的な変化ですね。変化が早すぎませんか?

Yさん
そうですね、本当にありがたい話です。たぶん、自分の中でずっと変わらなあかんなとは思ってたんですけど、変わるきっかけがなくて。

ーーーなるほど。印象に残っているプログラムやボランティアはありますか?

Yさん
サービスハブ西成を利用して2〜3ヶ月後に受講した「いきいき清掃講座」(こちらの記事の後半が詳しいです「植栽剪定やコインランドリーの清掃など、釜ヶ崎支援機構お仕事支援部で紹介できる作業を紹介します! – ヨリドコオンライン」)なんですが、床掃除とか、窓拭きのやり方を教えてもらったりしました。それが後の仕事につながっているんです。

花岡
講座を受けて、清掃にいろいろ挑戦することになったんですね。

Yさん
マンション清掃やホテルの清掃を経験しました。今は契約社員として大阪の某ターミナル駅の清掃作業をしています。ホームの掃除をしたり、車内清掃もしています。

ーーーおお、車内清掃! 扉が開いた瞬間にサッと入っていろいろ点検する作業ですね。ターミナル駅ならではですね。

Yさん
はい。僕の場合は駅のゴミ箱の回収の仕事がメインなんです。

ーーー急展開ですね。さっき花岡が自宅を訪問したときはゴミだらけと言っていたのに!

Yさん
はい、ゴミ屋敷でしたが清掃の仕事をしています(笑)

ーーーじゃあサービスハブ西成の利用を終了したのは駅の仕事が決まったからですか?

Yさん
仕事が決まってからですね。でも最初の仕事はマンション清掃だったんです。

花岡
ハローワークで求人が出てたところですね。それも順調に続いていて大丈夫そうだね、という状況でした。

Yさん
2つ掛け持ち先としてホテルのシーツ交換もしていました。ただ、ホテルの清掃をしているときに足を捻挫してしまって仕事に行けなくなったんです。仕事がうまくいっていたので正直落ち込みました。このままでは生活保護を抜け出せないからフルで働こうと思っていた矢先のことでした。

ーーーでは捻挫が完治してから駅の仕事をするようになったんですね。サービスハブ西成を利用してよくなってきた、と感じた瞬間はありましたか?

Yさん
通い出した頃はまだ酒を飲んでたんですが、サービスハブ西成のスタッフさんがいろんな風に声をかけてくださって、最初はぎこちなかったんですけど、だんだん話せるようになって。

不眠症もあるので酒はやめたくなかったんですけど、花岡さんに「眠剤だけほしい」と言っていたら、「アルコールと眠剤は相性が悪いのでアルコールのほうを辞めないと」と言われて、病院に通おうと思ったんです。それが2022年の8月ぐらい。病院で抗酒剤をもらいました。それから毎日薬を飲んで、一滴もお酒を飲んでいません。

ーーー今はどんな1週間を過ごされているんですか?

Yさん
毎日、朝早いときは3時に起きて、普通にご飯を食べて、8時から仕事場で働いています。夕方5時15分には仕事が終わります。帰って晩ご飯を食べてまた3時に起きるんですが、そのサイクルがなんだか自分の体調にいいんですよ。休みの日は食料品の買い出しに出たり、本を読んだり、散歩したり、平穏な日々が続いています。

ーーーその平穏な日々が続いて、生活保護を抜けた状態になったらやってみたいことはありますか?

Yさん
うーん、まあ今までいろいろ迷惑かけてきたので、社会に役立つようなことをしたいとは思います。できるかどうかわからへんけど、そういうのをちょっと参加してみたいと思います。

ーーーいま不安なことはありますか?

Yさん
酒を飲んでない限りはたぶん不安はないんですけど、 また飲み始めた時が怖いんで、うん、うん、それだけですかね。だから眠剤は今欠かせないですね。

ーーーアルコール依存症になる前はどんなお仕事をされていたんですか?

Yさん
職は転々としてましたけど、20代はだいたい工場で働いてました。 地元は大阪ですが、30代は東京でタクシー運転手をしていました。40代は大阪に帰ってきて日雇いの仕事をしていたんですが、その頃はもうアルコールで生活がむちゃくちゃになっていました。

ーーーそうだったんですね。

Yさん
ドヤ(宿)もお金が払えなくなって、ホームレス状態になって、生活保護を受けたんです。

ーーーアルコールに手を出すきっかけはなんだったんですか。

Yさん
面白くないからやと思うんですけどね。刺激がほしかったのかもしれないですね。精神的になんかいろいろあったんやと思うんすけど、相談できるところがあればよかったんですけど。

花岡
今日は取材があったから来てもらいましたけど、今後もちょくちょくサービスハブに顔を出してほしいですね。

ーーーたっぷりお話いただきありがとうございました。

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