前回・前々回の記事ではサービスハブ西成を紹介しましたが、同じ建物の1階は「ひと花センター」です。今回はひと花センターがそもそもどんな施設なのか、職員の上野貴明さんにお聞きしました。
上野
ひと花センターは、 西成区にお住まいの65歳以上の生活保護を受給している単身者のための施設です。西成区は生活保護を受給している人が多く住んでいるのですが、孤立していることも多いのが現状です。そこでこの事業に参加してもらうことを通して、地域社会とのつながりをつくり、一人ひとりがいきいきと生きられるような活動をつくっていく場所なんです。
2013年から始まった事業でそろそろ10年経ちます。初期に150人ぐらい登録された方々もほとんどが75歳を超え、足腰が痛いといった方も増え、どちらかというと事業は生活の見守りの方にちょっとシフトしていっています。
お金を計画立てて使うことが難しい人や毎日忘れずに服薬することが難しい人などをサポートするような、そういった業務が主軸に変わってきています。
ーーー利用者さんのご自宅を尋ねることも多いのでしょうか?
上野
お金のやり取りではそういうパターンもありますが、基本的にはひと花センターの金庫で保管して、ご本人と契約書を交わしてお金を預かり、決めた曜日にお渡しするようにしています。
ーーー今日は隣の部屋にみなさん集まっていますが、何をされているのですか?
上野
そうです。午後は「今日の出逢いを体験する」というみんなで話すプログラムがあるんです。
ーーーどんなテーマで話すのですか?
上野
テーマは自由です。 その時その時にあったことを先生が話して、それに対して連鎖する形で、みんながいろいろ話しはじめるんです。みんなで集まって自分のことを話したり、人の話を聞いたりする機会って意外となかったりするので、貴重な場になっています。
自分たちで何かいろいろ表現してみようとか、そういうプログラムも用意しています。ココルームさん(ゲストハウスとカフェと庭 ココルーム)と連携して、釜ヶ崎芸術大学(ココルームのプロジェクト)に来てくださっている先生とかを講師としてお呼びして、月に4回ぐらい書道や美術、体操、話すプログラムなど開催しています。
ーーーその様子を見て「私も参加したい!」という人がいるんじゃないかと思うんですが、誰が来ても参加できるのでしょうか?
上野
大丈夫です。例えばココルームに宿泊した学生さんが参加してくださることもありますし、登録はできなくても、参加すること自体はできます。
ーーー今メインで取り組んでいることはどんなことでしょうか?
上野
後ろに予定表が貼ってあるんですけど、日々のプログラムで皆さんの参加が多いのは、草刈りとか農作業なんですよ。収穫した野菜を労働福祉センターに売ったりもしています。
ーーー農作業はどこでされているんですか?
上野
2か所あって、三角公園の南側にフェンスで囲まれた畑があるんです。もう1か所、飛田新地の南側に敷地があって、その一角も使わせていただいています。
時期によって違いますが、今はたまねぎを植えたりとか、ちょっと前は山王こどもセンターの子どもたちを呼んで、一緒に芋掘りをしたりしました。
ほかには高校周辺の掃除とか、萩之茶屋や山王の辺りにある公園の草刈りとかが毎月、毎週あるイベントではあります。
ーーー参加される方は西成区役所から参加するよう言われて来る人が多いのでしょうか?
上野
「生活の状況が不安定」とケースワーカーが気づいて協議した結果、ひと花センターに受け入れてもらうのが良いと判断して回ってくる人もいれば、なんとなくポスターを見て気になったので登録したいと言って来られる人もいます。
ひと花センターはいわゆるデイサービス施設ではないので、自分の好きな時に来てプログラムに参加してフラッと帰っていったりとか、1日中ずっといたりとかそれぞれの過ごし方ができるのが魅力だと思います。そういう混ぜこぜ感が他にはあまりないのではないかと。
また、スタッフと利用者さんが一緒に協力して草刈りや清掃など地域ボランティアの活動をするので、ひと花としての一体感が生まれるように思います。
なので、人としてお互いぶつかったり、ぶつかられたりもあったりして、そういうところが働いていて面白いところでもあるかなと思います。
ーーーどんなところにやりがいを感じているんですか?
上野
例えば、ひと花センターを利用したことで生活に落ち着きを取り戻していったりとか、時間を持て余していた方がいきいきと活動するようになる姿を見るとすごいやりがいを感じますね。
ーーーなるほどです。話を戻すと今のひと花センターの課題ってどんなところでしょうか?
上野
利用者さん一人ひとりの暮らしのフォローをもっとていねいにしていくことでしょうか。お金のやりくりが苦手な方も少しフォローすることでしんどい状況が改善することはよくあります。体調がよくないという方も、ていねいに話を聞いてみると実は処方されている薬を飲むのを止めていたりするんですよね。
ほかにはまだまだ必要な方にひと花センターという場所があることは知られていないので、広く呼び掛けることですね。
ーーーひと花センターには1日どれぐらいの人が来るんですか?
上野
だいたい20人から30人の間ぐらいです。
(ここでサービスハブ西成の笠井さんが合流)
笠井
ひと花センターの1日の流れはどんな感じなんですか?
上野
例えば午前中は体操、それから草刈りや農作業、掃除が多いのでその準備ですね。草刈りに一緒に行ったりして、昼前に帰って昼食をとり、午後は別のプログラムがある場合は、他のスタッフにバトンタッチします。
その間に午前中にあったこととかをPCに記録するわけです。だいたい作業中に相談事があったりとか、いろいろ話しかけられたりということもあります。
例えば、新しく登録したいという人が来たりとか。今で言うと10月の最初の週に区民祭りというイベントがあって、その準備をしています。
この予定表をつくったり、シフト表をつくったり、ひと花センターの新聞を編集したりもしています。
夕方まではそういう記録をしたり、月々の業務の何かを僕はやっています。 例えば今月の映画は何を上映しようかと考えるのですが、利用者の趣味に合いそうで、2時間以内のものを探すのが難しいです。
夕方作業が終われば、フォローが必要な利用者さんの連絡事項とかを関係者に流すんですよ。例えば、利用者さんの気になる様子や訴えを地域の包括支援センターの担当の人とかに連絡したりするわけです。
ーーー利用者のケアと、イベントの企画運営と、お金の管理が同時進行でたいへんですね。
上野
はい、毎回並行して何かやっているみたいな感じです。
ーーー1階のひと花センターと2階のサービスハブ西成で何か連携していることはありますか?
上野
連携というほど強いものではないですけど、プログラムを開催していると、面白そうと言って、2階の利用者さんが参加してくれることはあります。例えばゲーム大会をしていたらダーツで盛り上がったりとか。
笠井
逆にこちら、1階のひと花の利用者さんが取り組んでいるベンチづくりですね。サービスハブの利用者さんも参加したけど、ひと花の人たちのてきぱきとやる姿に圧倒されて、少し参加してすぐ帰ってきたことがありました。
上野
腕には自信あるぜ。わしの出番やみたいな感じがありますね。
ーーー今は実現できてないけど、今後やっていきたいことはありますか?
上野
コロナ禍になる前はひと花センターでカフェと言って、毎週みんなでご飯を食べる会があったんです。100円を出してご飯を食べようという企画ですが盛り上がるので、そろそろ復活させたいですね。
あとは西成区役所と連携しているので、例えば他の施設を借りて何か催しをするとか、ボッチャというスポーツをしているんですが、他のチームと対戦したりとか、いろいろしていきたいですね。
ーーーいろいろ教えていただき、ありがとうございました。