釜ヶ崎支援機構の相談窓口はリーマンショックが起きた2008年当時、高齢者層と若年層に分かれていました。生活困窮者のための相談窓口がまだ整備されていなかったために若年層の相談窓口でチャレンジネットという事業を受け実施していたと細谷さんはいいます。
当時は警察や役所で西成までの片道切符を渡されたり、和歌山や名古屋から自転車で来たり、中には四国から歩いてたどり着いた方もいたそうです。
今回は細谷さんと中西さんに、相談支援部でできることについてお聞きしました。
ーーーこの場所は何ができる施設ですか?
相談支援部はあいりんシェルターの中にあります。入口で「相談支援部に行きたい」と言っていただくとご案内もできます。
中西さん
ここでは宿泊するところがない、 お金も持っていない、食べるものもないという方が相談に来られています。当日から食事や宿泊場所のサポートをしています。
細谷さん
対象者は基本的には生活困窮者ですね。家賃が支払えないとか、どこかで仕事していて、住居喪失もしくは失業して家賃を払えないとか、ほぼ所持金ゼロの状態で来所されて相談につながる人が9割以上です。その日から食べるものがなく、寝泊まりするところもない状態の方が来られて、 そこからどう支援につなげていくかという相談を受ける場所ですね。
未成年になると親の同意が必要になります。過去には中学生を受け入れたこともあります。両親が薬物依存で子どもの面倒が見れず、ネグレクト状態で祖母が相談に連れてきて相談を受けました。
ーーーここへ来たら、最初にどんなことを聞かれるんですか?
細谷さん
簡単な聞き取りをして、その人の問題点が何かを把握することからはじめます。
精神疾患や知的障がい、その他依存症などの何らかの障がいや疾患を持っている人もいます。なかなかその現状からすぐに自立して生活することが難しい人も多いです。特に最近そのような方が目立つ傾向にもあるので、すぐに医療機関へ繋ぐ場合もあります。
最初に1枚のシートを使って大まかなご本人の生活状況や収入面までヒアリングします。
細谷さん
医療機関や役所に何かしらの手続きで繋ぐ必要がある場合は、このシートに情報を落とし込みます。
この敷地内に高齢者特別清掃事業(通称、特掃)の詰所があります。身体の調子が悪くなり現場指導員から相談につなげてほしいという依頼もあります。
―――このシートは性別が男性しか記載されていないですね?
細谷さん
相談者の9割以上が男性なので。少ないですが女性もいます。
男性の場合はシェルターや隣に三徳生活ケアセンターという一時的に宿泊できる場所があります。女性や精神疾患などで集団生活が難しい方は利用できません。その場合はうちが提携しているドヤ(簡易宿所)に宿泊してもらい、支援につなげる方法をとっています。
ーーーお金を持っていない人にはお金を貸すのでしょうか?
細谷さん
お金を貸すことはほぼないです。基本的に現物支給でその日の食事の支援や、先ほど話した宿泊場所の提供などを行っていますね。緊急を要する場合は相談に乗ります。
ーーーとりあえずここに来たら命は助かりそうですね。
細谷さん
相談したその日から寝る場所、食べ物、衣類の確保ができるので衣食住は困らないです。併せて医療受診が必要な方にご本人に医療費の負担無く受診してもらうことも可能です。
―――いただいた資料に記載されている時効援用手続きとは何ですか?
細谷さん
半数以上の方はなんらかの借金を抱えておられます。生活困窮に陥る前に消費者金融とかでいろいろ借り入れしますよね。
個人から借り入れしたり、携帯電話代金の未納であるとか、その他もろもろの債務関係の問題を持っている方も非常に多いです。債権はもちろん、自己破産手続きなどは弁護士とも連携しながらしています。債権者からの督促等で時効を迎えた債権など初期段階の債務処理として内容証明を送ったりうちでできる範囲までやります。
ーーー手厚いサポートですね。今週はどんな方が来られましたか?
細谷さん
刑余者を含め何らかの形で拘置所や留置所で身柄を拘束されていた方が釈放後に「無料で泊まれるところがある」と聞いて西成へ来て、そこから支援につながるという方もやっぱり定期的にはいます。
中西さん
その他にも最近60代後半の女性が来られました。ちょっと認知症の疑いがある方で、 近くの ドヤ(簡易宿所)を行き来する時にすぐ道がわからなくなるので付き添いが必要でした。
細谷さん
認知症が課題として出る場合には医療機関と連携しながら進めます。そして認知症の対応が可能な施設に繋ぐこともあります。
ーーー1ヶ月にどれぐらいの方が相談に来られるんですか?
細谷さん
ひと月で言えば40名ぐらいで1日1人以上は絶対ですね。多い時は月に50名超える時もあります。
岡崎さん
サービスハブの相談員である私の印象では、相談支援部は継続的に関わっている相談者の方が多くいるというのがすごく印象的です。
細谷さん
大体、今関わっている相談者は150〜170名前後ぐらいかな。家賃の振り込みや、医療機関の同行でつながっている人もいるので、そういう人を含めると200名ぐらいの数にはなります。
精神科の受診ですとか、主治医とのコミュニケーションなど日々の本人の生活状況など情報交換をしています。主治医と相談しながら場合によっては入院に繋げていくこともしています。
ーーー2008年からされている活動なんですね。
細谷さん
そうですね。若年の方で、仕事の面で自立できたけれど金銭面での自己管理が難しく10年以上繋がっている方もいます。
そういう方たちの中には何度も失踪を繰り返し、再度相談に繋がるケースも多いです。失敗を何度も繰り返しながら徐々に安定していく人も珍しくありません。
伴走型の支援を通じて、自分の苦手な部分への自覚が芽生えると苦手な部分(金銭管理など)はうちに依頼して自立に一歩ずつ近づきます。
ーーーいただいた資料の事例紹介に出ている40代男性の方などは、壮絶なケースだと思ったんですが、ここでは通常のことなのでしょうか?
細谷さん
その方とつながった時はいろいろ定着が難しいかなと考えていました。被害妄想的なところも強く、関係性の構築に時間がかかる方でした。困っている部分があり支援に繋がってもちょっと失踪したり、過去にアルコールの問題などを抱えており過去には施設に入所していました。施設が嫌で失踪し、うちでつながった方なんですけども。この方も今安定して生活はできています。
ーーーすごいですね。
細谷さん
でも、先の見通しを立てることが苦手でこのままでは問題が起きるとわかっていても、ご本人はそこの理解が難しい側面があります。関わりを始めてからもいろいろトラブルは起きていますが、幸いなことに失踪せずに1年半ぐらいが経ちました。医療機関や役所、訪問看護とうまく連携を図り、作業所にも通いサービスを活用し落ち着きはじめています。
アルコール摂取量が増える傾向にあるので日中の過ごし方をうまく考えることができたら、酒量も減りますし、そういう感じで今関わり続けている方ですね。
ーーー将来的にしていきたいことや、相談支援事業部の中で課題にしていることはありますか?
細谷さん
将来的にしていきたいのは女性の相談者が来た場合の宿泊場所の問題を解消したいですね。
中西さん
細谷と同意見です。女性のシェルターが欲しいですね。
ーーー2008年の立ち上げから、細谷さんは関わっているんですか?
細谷さん
はい、チャレンジネットという事業を受けていて、20代から40代ののネットカフェ難民や、派遣切りにあった方がこの西成の地域に流入してきました。ちょうどリーマンショックの時にそういう方が増えたり、いろんな地域から流入してきた時代です。
現在よりも継続的な支援を行っている数は少なかったですが、当初から経緯は見ていました。当時は新規の相談が絶えず、役所の相談窓口も混雑しており役所に行くと半日がかりでした。病院の待ち時間も長く、炊き出しも若い人が並ぶことが目立ち始めてました。ある意味、力を持て余している若い相談者が多く殴り合いの喧嘩をしている人たちも多くいました。私が元々空手の指導者をしていたので、力の発散場所として若者に空手を教え、力を発散する機会にしてもらっていました。
少しずつ連携先が増え、現在は幅広い支援に繋ぐことができます。
ーーー仕事のやりがいって、どんなところ?
細谷さん
日々いろんな相談が来るので相談内容も千差万別です。様々な問題を抱えた方が来られますが、課題解決が出来たときは嬉しいですね。何らかの金銭トラブルで疎遠になっていた親や兄弟と、本人が自立することで課題解決がされ関係が修復が徐々にされます。その後実家の行き来も回復し、相談支援部に家族が来所され感謝されることもあるのでうれしいです。
ーーードラマチックな場面をいっぱい見てるんですね?
細谷さん
いろんな人がいますから。
中西さん
私も定着して自立していってもらえたらうれしいですね。私はこのエリアで働かせてもらってることが非常にありがたいです。毎日1日1日生きていくのに必死な人ばっかりだと思うんですね。1人でもここへ相談に来られたら、断らない支援を続けていきたいです。
この手紙は刑務所に収監された後にやり取りが続いているものです。刑務所に手紙を書いたりとか、うちでお金を預かっているので取りに来てくださいと送っているけれど、本人が何回も疾走している後ろめたさとかもあって、戻りづらいのはあるものの、最終的には戻ってくることが多いです。
ーーーありがとうございます。